全8回のコースも6回目となり、講義もいよいよ疾病治療後のリハビリテーションのフェーズに入りました。歯周病で支持組織を喪失してしまった歯が、口腔内で再び機能と審美性を回復するために必要な矯正治療と歯周補綴治療について解説しました。
弘岡先生が留学していた時代のイエテボリ大学歯周病科は、臨床医が多く、歯周病の治療はもちろん、歯周治療後の補綴処置も自分達で行なっていたとのことで、疾病治療からリハビリテーションまで、その最前線にいたLindhe教授やNyman先生から直接学べたことは羨ましい限りです。
そのLindheとNymanは支持組織の50%以上を喪失した歯でも固定性架橋義歯で保存することができることを報告していますが、この様な補綴治療は、高度なプラークコントロールができている患者のみ治療可能であり、当然、歯面のバイオフィルムの存在を診断できない歯科医は処置すべきでないと記しています。また、補綴治療に際しても、技術的工程を十分に理解して適切に行わなければなりません。
Tanらはコンベンショナルなブリッジの生存率は10年で89.1%と、Pjeturssonらのインプラントサポートブリッジの10年生存率80.1%と比較しても遜色ない生存率を報告しています。しかし、補綴治療は治療費も高額になりますので、術者も患者も恒久的な解決策であって欲しいと願い、信じてしまいますが、一度削られた歯がもとより健康になることは無いので、患者による適切な口腔衛生管理と、入念に管理されたメインテナンスプログラムにより、劣化を遅らせることしかできないのかもしれません。残念ながら、補綴治療は恒久的な解決策ではないことは患者にも言っておかなければならないのでしょう。講義では、口腔内に補綴装置を長く維持するための対応の仕方も少しだけ紹介しました。
後半は歯周病患者の矯正治療の講義でした。Brunsvoldのレビュー論文によると重度歯周病患者の30−56%に病的歯牙移動がみられると報告されています。多くの歯周病罹患患者に矯正治療が必要となります。炎症のコントロールがされていない楔状骨欠損の存在する歯の矯正治療はもちろん禁忌ですが、炎症がコントロールされていれば、支持組織が減少した歯でも矯正治療は可能です。補綴治療と同様に、矯正治療を開始する前にも歯周治療を行って炎症を取り除くこと、また矯正治療中適切な口腔衛生を維持すべきです。
咬合崩壊を起こした重度歯周病治療後のリハビリテーションには、複雑な治療が必要になるため、矯正医や補綴医とのインターディシプリナリーな治療が必要になり、術前に綿密なディスカッションにより治療計画を立て、術者それぞれおよび患者が治療のゴールを共有しておかなければなりません。
細かいhow-toはとても紹介しきれなかったので、やはり対面での実習付きコースが復活することが望まれます。
次回は歯周病患者へのインプラント治療です。2017年に発刊された弘岡先生の名著「歯周病患者のインプラント治療」もありますので、参考にされてください。