皆様の毎月の唯一の楽しみDr.弘岡ペリオコースウェブセミナーも、あと2回となってしまいました。
第7回の前半は、歯周病患者のインプラント治療について講義しました。
現在のオッセオインテグレーテッドインプラント発祥の地であり、その最前線であった時代にスウェーデンに留学していた弘岡先生ならではのインプラント治療の歴史を、裏話を交えながら講義しました。
Lekholmらは、後方、前方遊離端部分欠損患者へのインプラント治療後、5年のフォローアップで、93.3%と高いインプラント生存率を報告していますが、インプラントはもちろん、天然歯にもほとんどプラークの付着がみられないことから、口腔衛生が確立された口腔内へインプラントが埋入され、術後も適切な口腔衛生が維持されていることがわかります。Jemtもブローネマルククリニックでの30年間のインプラント生存率を、無歯顎で93.3%、部分欠損で95.3%と報告しています。歯が喪失した理由はわかりませんが、適切な口腔衛生が確立された口腔内であれば、インプラントの生存率は非常に高いことが分かります。
一方、Hulitinらは、部分欠損歯列に用いたインプラントの周囲に2mm以上の骨の喪失があった部位には、歯周病原因菌が必ず存在したと報告しています。口腔内に歯周病原因菌が存在するであろう重度の歯周病患者にインプラントを応用して良いのでしょうか?
Leonhardtらは、コントロール群との比較ではありませんが、重度歯周病患者にインプラント治療した10年後のインプラント生存率を94.7%、歯の生存率を87%と報告していますので、歯周病患者も適切な歯周治療後、口腔衛生が確立されていればインプラント治療は可能であることがわかります。
Hardtらは、歯周病で歯を喪失したと思われるグループと、それ以外の理由で歯を喪失したと思われるグループの5年間のフォローアップで、インプラント失敗率をそれぞれ、8.0%、3.3%と、歯周病グループの方が悪かったと報告しています。
Karoussisらも10年間の前向き研究で、統計的有意差は無いとしていますが、インプラント生存率を慢性歯周炎の既往があるグループで90.5%、慢性歯周炎の既往の無いグループで96.5%、また、10年間のインプラント周囲炎の発生率は28.6%と5.8%であるとしており、慢性歯周炎の既往のある患者は有意に高い生物学的問題の発生が見られたとしています。
広汎型侵襲性歯周炎患者へのインプラント治療は、Mengelらの10年間の前向き研究によると、プラークインデックスに差がなかったにも関わらず、インプラント生存率を健康なグループで100%、広汎型侵襲性歯周炎グループで83.3%としています。さらにその後の最長15年間の追跡研究で、健康なグループと広汎型侵襲性歯周炎グループで、インプラント生存率はあまり変わらない(100% vs 96%)が、インプラント周囲粘膜炎(56% vs 40%)やインプラント周囲炎になりやすい(26% vs 10%)ことを報告しています。広汎型侵襲性歯周炎を治療した患者は、インプラント周囲粘膜炎とインプラント周囲炎に罹患しやすく、インプラントの生存率と成功率が低くなるので、この様な特殊な患者群へのインプラント治療は、専門医が行なった方が良いのかもしれません。
歯周病患者にインプラントを用いる場合は、インプラント周囲に問題を起こしやすいので、適切な術後管理は必須となります。患者にも治療前にメインテナンスが必須であることを説明しておかなければなりません。
また、未治療の歯周病患者におけるインプラント生存率の報告はありません。疾病の診査、診断、治療ができない病院でのインプラント治療が上手くいかないことは容易に想像できます。
重度歯周炎により歯を喪失した患者は、う蝕等で歯を喪失した場合に比べ、骨の喪失量が多くインプラントの埋入自体が難しくなってしまうことが多々あります。講義では骨が少ない時の対処法である、ショートインプラント、カンチレバーの応用、傾斜埋入を解説しました。
Thomaらのシステマティックレビューによると生物学的合併症や費用、サイナスリフトによる手術時間を考慮するとショートインプラントはより良い治療選択肢であるとしています。また、Wennstromらはインプラント上部構造におけるカンチレバーで骨の喪失に差はないこと、Koutouzisらにより歯周病患者にインプラントの傾斜埋入をしても5年間で骨の喪失量に差はなかったことが報告されています。これらの対処方法とインプラントを利用した歯周補綴治療をスウェーデンデンタルセンターでの症例を用い解説しました。
詳しくは症例も多く掲載されております名著を参考にしてください!
後半は弘岡先生が帰国時から警鐘をならしているインプラント周囲病変についての講義でした。
インプラント周囲炎の発生率はDerksらのスウェーデンでの大規模な疫学調査によると、インプラント埋入9年後、患者レベルで32%にインプラント周囲粘膜炎、2mm以上の骨喪失を基準とすると14.5%にインプラント周囲炎が認められたと、決して少なくない割合を報告しています。
弘岡先生がProf. Renvertと共著した国際歯科連盟(FDI)のインプラント周囲組織の診査診断についてのコンセンサスレポートには病気はもちろん、健康についても明記されています。これらの診査診断は正確なプロービングやX線写真を撮影することができなければ行えません。
インプラントは歯と違いCEJの様な基準点がなく、インプラントメーカーや埋入時の深度などにより条件が異なってしまうため、正確なベースラインデータおよび定期的にデータ(PPDと骨レベル)をとることは、鑑別診断にもインプラントの状態を知りその処置のためにも必要不可欠です。
インプラント周囲炎になると確定した治療方法は見つかっていませんが、インプラント周囲粘膜炎とインプラント周囲炎の境界はわかりにくく、初期のインプラント周囲炎と粘膜炎を誤診しやすいので、適切な診査診断をして辺縁骨の喪失を阻止あるいは軽度に抑えることが大切です。
インプラント周囲炎の治療に関しては時間がなくて講義できませんでした…
インプラントを埋入しなければインプラント周囲病変は起こらず、歯を抜かなければインプラントも埋入されません。インプラントを埋入する前に歯の保存に努めましょう!
次回はいよいよ最終回です。良く睡眠をとって臨みましょう!